-私の究極の愛聴盤2枚-

「MY FUNNY VALENTINE」
MILES DAVIS

1964.FEB.12(Columbia)
Miles Davis.tp
George Coleman.ts Herbie Hancock.p
Ron Carter.b Tony Willams.ds

「FOUR&MORE」
MILES DAVIS

1964.FEB.12(Columbia)
Miles Davis.tp
George Coleman.ts Herbie Hancock.p
Ron Carter.b Tony Willams.ds

 マイルスは私の大好きなミュージシャンの一人です。一番目に好きなミュージシャンかと聞かれれば、違うと言うかも知れないけど、二番目かと聞かれればやっぱり一番目にしたくなるプレイヤーです。
 マイルスの何がそんなにいいのかと聞かれれば、私は即座に「間」と答えます。マイルス作り出すサウンドには空間、スペースという音の出していない瞬間があります。そんなフレーズの途中やリズムの隙間に生まれる微妙なスペースは演奏の緊張感をひときわ際立たせ次の展開への大きな弾みともなっています。つまり音を出さずに音楽を表現することができるミュージシャンじゃないかと思うわけです。音のない部分というのは聴く側に想像力を与えてくれます。つまり聴く人がマイルスの作り出す「間」を自分なりに埋めていくことによって、より素晴らしい演奏になっていきます。その「間」を埋める想像の作業は、聴く人の気分、体調によっても変わるので聴く度に印象が違ったり、新しい発見があったりと、まさに飽きの来ないプレイになっていると思うのです。
 その代表的なアルバムが「MY FUNNY VALENTINE」です。 マイルスのミュートプレイは素晴らしい表現力で聴く人をぐいぐいと引き込んでいきます。さらにハービー、ロン、トニーといったリズム陣とからんでの変幻自在な展開は、まさにインタープレイの究めといっていいでしょう。 水を打ったように静まりかえった会場で「Stella by Starlight」のテーマを吹くマイルスに感極まったお客さんが「イエ〜〜〜ィ」と声をかけるところなんかはゾクゾクものです。アルバム全体にわたって張りつめた展開が続くだけに、これだけ耳を研ぎ澄まして一音一音を聴いたアルバムはないでしょう。ハービーのフレーズも心に染みます。

 今回の2枚のアルバムは1964年2月にニューヨークにあるフィルハーモニック・ホールで行われた演奏で同じ日のコンサートです。「MY FUNNY VALENTINE 」はバラードを中心に緊張感溢れる演奏が「 FOUR &MORE」は早い曲ばかりでスピード感と躍動感に溢れた演奏です。
 当時は黒人の意識改革が進んで市民権運動が盛んになった頃でもあり、市民権登録運動の慈善イベントとして行われたようです。メンバーはマイルスの他にテナーサックスがジョージ・コールマン。そしてピアノのハービー・ハンコック、ベースのロン・カーター、ドラムス、トニー・ウィリアムスというリズムは60年代のマイルスバンドを担うスーパートリオ。後にショーターを迎えて黄金のクインテットと呼ばれる最強のバンドに発展していきます。その立て役者とも言えるのがドラムスのトニー・ウィリアムスでしょう。弱冠17歳でマイルスのバンドに参加。その腕前というのはまさに天才的なものがあります。息もつかせず叩き出すリズムとスピード感は躍動的で力強いパワーに溢れています。普通は曲が始まるとドラマーというのは無意識のうちにリズムやテンポなどに縛られて、それをキープしようとするのが普通ですが、トニーの場合はそれを壊そう壊そうとしているとしか思えません。さらに誰も踏み込んでいない未知の展開へとみんなを引きずり込もうとするのです。そういったプレイができるすごいメンバーでもあっただけに、とどまることを知らない最高の演奏になったのだと思います。
 静と動の自由自在なリズム展開はもちろん、喜怒哀楽といった感情もプレイの中で表現していくマイルスバンド。その凄さはジャズという枠にとらわれず音楽の原点を体感させてくれるんじゃないでしょうか。ぜひ聴いて欲しいアルバムですね。